Hommage à Kelly by Irma Boom
Bibliographic Details
- Title
- Hommage à Kelly
- Editor
- Irma Boom
- Designer
- Irma Boom
- Publisher
- Slewe Gallery
- Year
- 2016
- Size
- h200 × w150 × d50 mm
- Pages
- 1216 pages
- Binding
- Sewn, Packed in a carton box
- Printing
- Offset printing on IBO One 60 gsm paper
- Edition
- Edition no. 91 of 99
- Condition
- New
Each hand-signed and numbered in pencil by the artist
エルズワース・ケリーに捧げる
限定99部のアーティストブック
この「Hommage à Kelly(ケリーへのオマージュ)」は、イルマ・ボームがIBOペーパー(彼女がドイツの製紙会社と共同開発した本文用紙)を使用した最初の本で、じぶんで企画と編集とデザインを手がけた最初のself-initiated artist’s book(自主制作本)である。イルマ・ボームの「はじめて」がいろいろと詰まった本なのだが、それもそのはず、エルズワース・ケリー(1923-2015)の抽象作品は、彼女にとってずっと以前から最大のインスピレーションをもたらしてくれるものだった。
タイトルに「オマージュ」とあるのは、この本が完成するのを待たず、ケリーが他界したからでもある。彼が亡くなる前からこの本の構想を温めていたイルマは、何通もの手紙にその思いと出版のお願いをしたためていた。それなのに、結局一通も投函しなかった。放置しているうちにケリーが亡くなったという訃報を知り、落ち込んでいたそんな最中に、アムステルダムのギャラリー「Slewe Gallery」から連絡があった。イルマの仕事をテーマに展覧会をしたい、という依頼だった。それで、乾坤一擲、ケリー財団にコンタクトを取って、99部だけの特別な本づくりを相談したのだった。きっと、弔いの気持ちも、思いついていたアイデアの成仏も、依頼されるデザインワークとは違う自発的な本づくりをしたいという積年の思いも、いろいろ重ね合わせた行動だったのだろうと思う。
もとになっているリトグラフ作品は、イルマが収集していたケリーのリトグラフ作品数点のみ。完成した本とほとんど同じくらいのサイズの小さな作品だ。イルマは革新的な紙の折り方を考案して、たった数種類の製版のみで、同じ見開きのイメージがひとつも現れない1200ページにおよぶ一冊を作り出してしまった。
編集の手法も、イルマが得意とする多様で大量の素材を大胆に編集する本づくりとは、まったく異なるアプローチである。最小の素材のみで、対象に少しも手を加えずに、何度もめくりたくなる刺激的な本に仕立ている。1200ページにわたる色彩のエッジは、ページをめくる行為を通して、ケリーの目に写ったであろう実在した何かを想像させてくれる。
ケリーは常々「鑑賞者は作者のことを想起しないで純粋に作品だけを見てほしい」と語っていた。幼いころは体が弱く、母に連れられてバードウォッチングをしていたケリーらしい言葉だ。だって、うつくしい鳥の声を聞いて、だれがその鳥の創造主に思いを馳せるというのか。いまそこに在る美しさ、それだけで十分ではないか、と。
「心の目を閉じて目だけで見ると、究極的にはすべてが抽象と化す」というアフォリズムも、ケリーらしい。目を閉じて心で見る、のではない。その逆なのだ。心や感情でものを見てはいけない、と説いている。そして、この箴言は、イルマの「Hommage à Kelly」を評するための表現としても、ぴったりなのだ。この本には、ケリーに捧げる序文や編集後記やあとがきは無い。もちろん本文もない。目次もノンブルもない。図版の注釈もない。表紙らしい表紙もない。黒い箱がその役目を果たしていると本人は言っているが、ダストカバーも付いていない。とにかく、あらゆる要素を削ぎ落として、目の前の純粋な「かたち」と「色彩」を、ただ見えるままに受け取ることしかできないような読書体験が用意されている。
だからこの「Hommage à Kelly」は、イルマが(依頼されて)手がけた500冊を超えるブックデザインと比べても、あまりにも独創的で、それゆえ有名な一冊になっている。「目だけで見る」、そんな境地に立てたら世界はどれほどうつくしいだろう。
イルマは最新刊『ブック・アクティビスト』の中で、じぶんのコレクションにある作品集「Ells Worth kelly(エルズワース・ケリー)」と「Hommage à Kelly」について、このように語っている。
〈以下、引用〉
私がデザインした「Hommage à Kelly」と1971年にエイブラムスがデザインしたケリーの作品集は、アプローチが極端に異なっている。
エイブラムスは、彩色作品は光沢紙にカラー印刷して貼り付け、素描などのモノクロ図像は直接ウルトラマット・グラビア印刷している。
これはよく考えられた手法で、思索者かつ素描家としてのケリーと、画家としてのケリーを、はっきり見分けられるようにしているのだ。
全てのディテールが最高レベルのクオリティで作り込まれている。
対照的に私の本は、私のコレクションに入っている彼の小さなリトグラフ作品への個人的な解釈を示したもの。全ページ、単色のベタをオフセットでIBOペーパーに印刷した。ケリーの根幹にある芸術性を、純粋な色とフォルムに抽出。挿絵もテキストもなし。この本自体を抽象彫刻的な体験、知覚的な体験の場にしたいと考えた。ページをめくるごとに単色の板切れのような形が現れるだけのミニマル表現が、ケリーの思想を響かせる。というのが私の信条。
◉商品のお届けについて
展覧会「Irma Boom: Book Activist」で展示貸し出し中のため、発送は9月1日以降になります。