ノルウェー在住の
双子のエリとトリルは、
とうめいで繊細でつよい。

スリーブを外すと、やわらかくて鮮やかな紙の重なりがあらわれる。本文用紙には丈夫で透ける紙を使い、１ページずつ折り畳まれた紙をさらに天側に展開するという凝った造本だ。著者は、ノルウェーの西部に暮らす言語発達障害を持つ双子の姉妹。ふたりの密接な関係と外の世界との関わり方を、いびつな手書き文字やドローイングで軽やかに表現している。表紙のイメージは一冊ごとに異なる。

そもそもは、ノルウェーのビデオアーティスト、アン・トヴェイト・クヌッセン（Anne Tveit Knutsen）による同名のドキュメンタリー映画『TVILINGSONG』のの書籍版として500部限定で出版された。このドキュメンタリーは、ノルウェー西部のフィヨルドで生まれた知的障害を持つ一組の双子、エリとトリルの生活を追った内容だ。

アンの意図は、このドキュメンタリーを通して、双子同士の独特なコミュニケーションの取り方、そして彼らを取り巻く世界との共生関係を探ることだった。しかし、撮影の途中でトリルは不幸にも病に倒れ、この世を去ってしまった。生まれてはじめてひとりぼっちになって戸惑ったエリは、突然見知らぬ世界に一人で立ち向かうことになり、夢中になって絵を描きつづけた。エリは子供の頃から、色鉛筆を使って抽象的な色のブロックや線を描くのが好きだったのだ。トリルを失ってから描く絵には、文字のような筆跡が時折現れるようになり、色鉛筆を幾重にも重ねることで神秘的で美しい色彩が生まれた。この本には、撮影中の双子の簡単な会話が記録されているが、トリルの死後は、死への不可解さと未来への戸惑いに満ちたエリ一人の独白のみがそこに刻まれている。

この本の制作にあたっては、ビデオアーティストのアン自身もまた、中国語の描き下ろし作家として参加した。著者の双子が現実の意味から乖離しつつ現実世界とつながっていることを理解するために、自身も理解のできない中国語訳を見様見真似で手書きしたそうだ。著者に「寄り添う」よりも、更に一歩踏み込んだアプローチとして評価されるべきアクションである。

静けさとダイナミックさを併せ持つ造本デザインは、中国人デザイナーパン・イエンロンと企画者の妻でもあるイ・レイが共同で手がけた。本書中のビジュアルはすべてエリのオリジナルドローイングの精密なプリントで、美しい色彩に吸い込まれそうになる。映像が一冊の本になったこの本は、まさに手の中でエリの描くストロークが動いているかのような躍動感を感じさせるのだ。巻頭と巻末を除いて、本文頁はすべて折りたたみ式で読者が展開するしかけになっており、ページを広げる指先や画面全体に広がるイラストを追う視線といった読者の動きがデザインされている。本文用紙に和紙シンセテックを選んだのは、紙の特徴が双子の心理的な特徴と似ていたからなのだそう。薄くて透明感があるにも関わらず、非常に丈夫で簡単に破れることはない、まるで双子のようだと企画者であるベン（俞闻候）は微笑みながら語ってくれた。

映像が一冊の本になったこの本は、まさに手の中でエリの描くストロークが動いているかのような躍動感を感じさせる。一軒の家も、一皿の料理も、この世界で本にできないものはないと言う人もいる。

ここに、歴史学者のテッサ・モーリ・スズキの言葉を引用したい。

ー

これまでの日々も
これからの日々もきっと

忘れるためではなく
覚えておくために

欲望するためではなく
理解するために

記録するためではなく
信頼するために

ー

映像も写真も絵も本も、捉えきれない「いま」を世界に焼き付けておく手法だと思いたい。
それは、いつも理解するために、信頼するために、焼き付けられるものであって欲しいものだ。

双子の日々は、この一冊の本の中に在る。

 Northing

上海出身の中国人建築家ベン（俞闻候）と同じく中国人デザイナーのイーレイ（一蕾）が、ノルウェーのベルゲンで設立したノルウェーと東アジアの文化交流促進に重点を置く、非営利現代美術センター。Northingが主催する越境文化スペース「Northing Space」は、出版、デザイン、アートなどに関する文化交流活動を行っている。
https://www.northing.no/