使えないスプーン / 竹俣勇壱
Bibliographic Details
- Title
- The Collection of Useless Spoons / 使えないスプーン
- Author
- Yuichi Takemata / 竹俣勇壱
- Editor
- Editor + Publisher: Osamu Kushida / 櫛田 理
- Designer
- Nobuhiro Yamaguchi + Ippei Tamai / 山口信博+玉井一平
- Images
- Photo by Shizuka Suzuki / 写真:鈴木静華
- Publisher
- FRAGILE BOOKS
- Year
- 2025
- Size
- h256 × w148 × d21mm
- Weight
- 600g
- Pages
- 224
- Language
- English & Japanese / 日英対訳
- Binding
- Codex binding / コデックス装
- Printing
- 4C Offset printing / 4C オフセット
- Materials
- Main paper: Sun Lumer 4/6 105kg, Cover Paper: Arabelle White 4/6 200kg, Sleeve paper: Gmund Bio Cycle FS Cannabis 210g / 本文用紙:サンルーマー 46判 105kg 、表紙用紙:アラベール ホワイト 46判 200kg 、スリーブ用紙:グムンドバイオサイクルFS カナビス 46判 210kg
- Edition
- Limited edition of 2000 copies / 限定2000部
- Condition
- New
- ISBN
- 9784909479068
English translation: Futoshi Miyagi, Ben Davis (p208-213), Special thanks: Yoko Tatsuzawa, Toshiko Sakata, Printing: TOPPAN Colorer Inc. Akito Akagi, Shotaro Yoshida 翻訳:ミヤギフトシ、ベン・デイビス(p208-213)、特別協力:辰澤洋子、坂田敏子、赤木明登、吉田昌太郎、印刷:TOPPANクロレ
ここに一本のスプーンがある。
700年前に使われていたスプーンで、オランダの川底から発掘されたらしい。美術的な価値はほとんどないし、実用の役目もずいぶん前に終えている。このような錆びれて、朽ち果て、もう使えないスプーンやナイフがぼくの手元にはたくさんある。もともとは、つくり方を知るための資料だった。
竹俣勇壱
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【編集後記】
20年以上前に工芸研究家の辰澤速夫さんが上梓した『カトラリーの宇宙』には、坂田和實さんが欧州でこつこつ買い集めた中世のカトラリーが鈍色に輝いていた。この一冊が、けっして大袈裟ではなく、雷鳴の一撃となって金沢でオーダージュエリーを作っていたひとりの彫金師のもとに落っこちた。その日を境に、彼は毎日それを鞄に入れて持ち歩き、ボロボロになるまでページを捲り、ついにどうしてもほんものに直接触れたくなって、目白の古道具坂田に通うようになった。その人物こそ、この本の著者の竹俣勇壱です。
ちょうどその頃、竹俣さんはオーダージュエリーを手がける傍ら、スプーンを作り始めていた。手作りで一本ずつ。それは眠っていた純粋なつくる歓びを再燃させたが、時間がかかる割に微々たる利益しか残らない。どれだけがんばっても、たかがカトラリーなのか。壁にぶつかった。しかしそれでもおめおめ諦める前に、手作りしか選択肢がなかった中世ヨーロッパの職人にヒントを求め、古いカトラリーを探しはじめた。
だんだんコレクションが増えて分かったことがある。それは中世のヨーロッパでカトラリーを作っていたのは、武器や宝飾を生業とするアルチザンで、依頼主はみな身分の高いお金持ちだったということ。つまり、そこには職人の手仕事で生産性を飛躍的にあげるアイデアは見つからなかった。いくらでもカトラリーにお金と時間を掛けていい、という男爵たちは現代にはもういない。結局、かなりの数の使えないスプーンたちが手元に残り、その美しさだけが彼をなぐさめた。
その後、なんの導きだろうか、辰澤さんの没後に輪島の塗師・赤木明登さんのところに渡っていたカトラリーコレクションが、竹俣さんのもとにやってきた。そのあたりの事情は、本書のあとがきをお読みいただきたい。が、この本は、はじめから『カトラリーの宇宙』の続編として切望された出版企画だったのです。かつて同書に収録されていた辰澤さんの論考「カトラリーに見る西洋の本質」や坂田さんが書いた寄稿文からの抜粋も、そのような背景からもう一度再録させていただいた。
この本は、坂田さんがあつめた辰澤コレクションをベースに、つくり手でもある竹俣勇壱が収集した合計74点のカトラリーを収録しています。スプーンとナイフとフォークのうち、もっとも数の多いスプーンは、表と裏の両側が見えるように構成している。ケレン味のない淡々としたページネーションも、すべて原寸大なのも、アートディレクターの山口信博による意匠だが、竹俣勇壱がつくり手であることも大きい。
この本には、たとえ古いものでも、使えるように磨いてしまったものは登場しない。価値があるとされている刻印の有無も関係ない。華美で装飾的なカトラリーも排除されている。ただ、美しく経年変化しているか、ということが重要で、ある意味でメタルの宿命をまじめに背負ったものだけが、坂田・辰澤・竹俣の3人によって選びぬかれている。
竹俣さんはふだんは「使えるカトラリー」をつくる彫金師だから、柄の先端を近づいて見せたり、小数点以下の重量まで記録したり、この本でも細かなディテールを問いつづけた。巻末に付した「解説」には海外のさまざまな資料にあたりながら校了直前まで推敲をつづけた数々の発見が綴られている。日本国内には類書はおろか参考書すらほとんど無いなかで、よくぞここまで独力で調べあげたものだと思う。
それぞれのカトラリーの合間には、ブリューゲルやボスやモネたちが描いた「カトラリーの登場する絵画」を継木し、中勘助や伊丹十三やジャック・プレヴェールたちが残したカトラリーの言葉を吹き寄せた。それは幽かでもカトラリーのある風景が立ち上がるようにと願いを込めた、編集者のおまじないです。
研究者、目利き、つくり手と立場の異なる人の手を渡ってきたスプーンたち。このもう使えないスプーンたちが、次の雷鳴の一撃をだれかに落とすことを願って、本書を発行します。
最後に、巻頭に載せた坂田和實さんの言葉を贈ります。
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このコレクションは、これから真摯に工芸の道を歩もうとしている若い人たちに、美しさの基準とは何なのかという大切な問題を考えさせ、又製作上で悩み、迷う人たちをその崖っ淵から救い上げ、多くの人たちに物を作る楽しみや、物を蒐集する喜びを教えてくれることだけは間違いないだろう。
坂田和實
This collection will encourage young people who are dedicated to the path of craftsmanship to consider the important question of what is the standard of beauty. It will also help those who are troubled and lost in the process of making to be rescued from the brink, and will no doubt bring the joy of making and collecting to many readers.
Kazumi Sakata
◉商品のお届けについて
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著者プロフィール
竹俣勇壱 / Yuichi Takemata
1975年金沢生まれ。95年より彫金を学び始める。2002年独立。2004年、「KiKU」オープン。オーダージュエリーを中心に活動、2005年、ジュエリーに加え生活道具、茶道具の制作を始める。2010年「sayuu」オープン。2店舗のショップを中心に全国で展覧会を開催。機能や技法にとらわれず意匠的な美しさを追求し古色仕上げ精密な鏡面仕上げなど様々な加工を使い分ける。