The codices of the masters / 究極の本

Bibliographic Details

Title
The codices of the masters / 书之极
Author
Wang Ji / 王骥 ワン・ジー
Designer
pan yanrong / 潘延栄
Publisher
Jiangsu Phoenix Fine Arts Publishing House / 江苏凤凰美术出版社
Year
2020
Size
h395 x w290 x d40 mm
Weight
2380g
Pages
624 pages
Language
Chinese / English
Binding
Saddle-stitched perforated binding / 中綴じミシン製本
Printing
Printed by Artron (China)

ひとりの中国人美術商が
世界中から蒐集した
24冊のアーティストブック。

中国人アートコレクター、Wang Ji(ワン・ジー)のプライベートコレクションから、24冊の世にも珍しいアーティストブックを紹介する一冊。この本そのものが奇書といえるが、ここ数年のあいだに出た世界中の新刊のなかでは、もっとも美しい「本の本」の一つ、と断言できる。

本書には、たとえばエド・ルシェに代表されるような簡易な印刷製本でできたアーティストブックは登場しない。イルマ・ボームや杉浦康平や呂敬人といった商業出版の中で異彩を放つブックデザインも登場しない。コレクターのWang Jiは、少ない部数だけ出版されたハンドメイドのナンバードエディション(限定番号の記された特装本)に焦点をしぼり、ブックアートの殿堂があれば入りそうな一級品ばかりを世界中から揃えた。中国ではじめて包括的かつ体系的にアーティストブックの世界を紹介するにあたって、アメリカやフランスなど海外に活躍の場を移した中国人アーティストによるハンドメイドブックもいくつか登場する。

24冊のすべての造本と装幀は「仕立てのよい書物 / テーラード・ブック」と名づけたいほど。よくよく吟味して、セレクトしていることがよくわかる。共通する点は作者もしくは原作者の存在がことさら際立っていることか。常玉(SANYU)、アンディ・ウォーホル、井上有一、サルバドール・ダリ、ギュンター・グラス、アルナルド・ポモドーロ、ザオ・ウーキー(Zao Wou-Ki)、ワラス・ティン(Walasse Ting)、アンリ・マティス、ラウシェンバーグ、シャガール、エンリコ・バイ(Enrico Baj)、朱徳群、そして古代中国の詩人陶淵明。出生地も年代も職能もじつに多様。

日本からは唯一『井上有一小品集 俎 1955-1978』(1981年 / UNAC TOKYO)が選抜されている。この一冊には、井上有一の「一字書」などの小品をほぼ原寸で忠実に複製した12点の図版プレートが収録されている。装幀は、一枚ずつ取り出して鑑賞できるように図版を綴じずに挟み込んだポートフォリオ仕立て。発行部数の500部はこの本で紹介されている他の本と比べれば多いくらいだ。FRAGILE BOOKSにも一冊コレクションがあり、近々公開したいと思う。

600ページをこえる本編は、1冊ごとに本のディテールを撮り下ろした写真と、それぞれの「人物」をていねいに紹介するテキストで構成されている。序文には、約4000字の実在しない偽漢字を作品化した「天書(Book from the Sky)」で知られる中国人アーティスト徐冰(シュー・ビン  / XU Bing)やイタリア人アーティストAngela Occhipintiがテキストを寄せている。徐冰に白羽の矢を立てる用意周到さからは、書物とアートをむすびつけたい本気度がびしびし伝わってくる。

ほぼA3サイズのおおきな紙面を大胆に装幀したのは、気鋭の中国人デザイナー、パン・ヤンロン(pan yanrong)で、ほかにも彼の手がけた本には興味深いものがあるので、またの機会に紹介したい。印刷を担ったのは、北京に本社を置く世界最大の美術書籍印刷会社「Artron(アートロン)」で、この本のために、台湾、日本、ドイツから6種類の特殊な紙をわざわざ取り寄せたのだとか。ブックデザインや印刷製本においても、書名の「究極の本(书之极)』にふさわしい仕事をしているとおもう。



Text by 櫛田 理