折形のコードとモード / 山口信博(折形デザイン研究所)
Bibliographic Details
- Title
- The Codes and Modes of Origata / 折形のコードとモード
- Author
- Nobuhiro Yamaguchi / 山口信博
- Editor
- Osamu Kushida / 櫛田理
- Designer
- Nobuhiro Yamaguchi + Kumi Horie / 山口信博+堀江久実
- Images
- Yosuke Otomo, Takashi Shima, Noboru Yokoyama / 大友洋祐、島 隆志、横山 登
- Publisher
- BON BOOK (TOPPANクロレ)
- Year
- 2025
- Size
- h210 x w150mm
- Weight
- 350g
- Pages
- 144 pages
- Language
- Japanese and English / 日英対訳
- Edition
- 2500 copies / 2500部
- Condition
- New
- ISBN
- 978-4-910462-30-1
Planning: Nobuhiro Yamaguchi+Midori Yamaguchi+Yuko Nishimura, English translation: Louis Templado / 企画:山口信博+山口美登利+西村優子、翻訳:ルイス・テンプラート
折る、包む、結ぶ、贈る。
古来私たちは贈りものに心を込めてきました。
心を込めて贈りものをするときに、そのまんまというのは、ちょっと気になるものです。掛け紙を巻いたり、包装紙でラッピングしたり、一筆を添えたりします。お祝いやお葬式には熨斗袋が要るし、お正月にはポチ袋も登場する。紙幣のような紙ペラでさえも、ていねいにまた紙で包んでしまう。裸のままでは心が伝わらないと感じてしまうのが、日本人の精神性なのかもしれません。
そんな日本人が、紙を折るパターンやフォーメーションだけで、季節や相手や場面に合わせて折り方や包み方や結び方のバリエーションを変えながら、互いに心を交わし合う贈答文化を熟成させてきたことは、世界を見渡してみても類例がなく、とても奇妙でうつくしい習慣です。忙しい現代社会のなかで忘れられつつある「折形 (おりがた)」は、日本人の生活の中にある美しい伝統なのです。
折形の原型は、中国から紙が入ってきた平安時代まで遡ります。平安時代の女流文学者たちは、うすい雁皮紙に歌や消息をしたため、それを包んで贈り合いました。いまでいう、手紙です。それが武家社会になると武家の礼法として細分化と体系化がすすみ、江戸時代に入ると、贈答の技法や心遣いは町人文化として広がりました。相手を思いながら、紙を折りたたみ、贈りものを包む。煎じ詰めれば、ただそれだけのことです。それなのに、できあがる紙の造形はどうしてこんなに美しいのだろう。グラフィックデザイナーでもある著者の山口信博さんの心をつかんだのは、それくらいシンプルな理由だったと思います。
山口さんによると、1997年頃に神保町の古本屋でたまたま伊勢貞丈が1840年に上梓した『包之記』の原書を手に取った。それが、最初の出会いだったようです。はじめのうちは、変体仮名の連綿体で書かれた内容を読み解くのに精一杯だったそうですが、おそらくはじめから折形の美しさのなかに、モダンデザインに通じる造形美を直観していたのではないか。本書の後半にそのあたりの理由や展望が詳しく述べられているのでここでは割愛しますが、これまで礼法の正しさ(つまりコード)を探求する者はいても、折形とデザインをつなぐことを試みたのは、山口さん以外に誰もいませんでした。
本書は、2025年に設立25周年を迎えた「折形デザイン研究所」の集大成として刊行する一冊でもあります。全体は二部構成で、前半は「折りと包みと結びと歳時」と題し、折形の実用例を四季折々の歳時記仕立てで紹介しています。後半は「折形とデザインのあいだ」と題し、折形とモダンデザインの内なるつながりをひも解きます。「ORIGATA」を世界語にしたいという著者の思いから、思い切って全編日英バイリンガルという構え。
著者の山口信博さんは「折形デザイン研究所」を主宰する一方で、グラフィック・デザイナーで、俳人で、神職の肩書を持ち、アマチュア・プリンターで、古物蒐集家でもあります。
表紙に貼り込まれた題箋は、うっすら山と谷の筋が押され、糊付けされているので外して折ることはできませんが、筋に沿って紙を折っていくと「箸包み」の雛形になるという仕掛けも隠れています。
FRAGILE BOOKSは、過去に「小笠原流 熨斗折形標本」を紹介したことがありますが、いま手元には「伊勢流 婚禮折形の標本」があります。日にかざすと、折り重なった紙の陰影がうっすら浮かび上がり、翅のようにうつくしい。忙しい日々を過ごしていても、贈りものをするときくらい、一枚の紙を折って、包んで、結ぶ、という静かな所作を身につけたいものです。
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折形デザイン研究所 Origata Design Institute
伝統的な「折形」をモダンデザインの観点から捉えなおし、現代の暮らしへ取り入れることを目指し、4人のグラフィックデザイナーにより2002年に発足。展覧会、ワークショップ、教室の開催、本の出版、手漉き和紙の職人とのコラボレーションによる、オリジナル商品の開発など、さまざまな活動を通して、折形の美と精神を伝えている。
山口信博 Nobuhiro Yamaguchi
グラフィックデザイナー/ 1948年生まれ。
桑沢デザイン研究所中退。コスモPRを経て1979年独立。2001年有限会社山口デザイン事務所、同時に折形デザイン研究所設立。主な仕事に住まいの図書館出版局『住まい学大系』全100冊のブックデザイン、鹿島出版会『SD』のアート・ディレクターなど。著書に『白の消息』(ラトルズ、2006)、『つつみのことわり』(私家版、2013)、句集『かなかなの七七四十九日かな』(私家版、2017)など。2018年「折りのデザイン」で毎日デザイン賞受賞。
https://www.yamaguchi-design.jp/