Teapot

Bibliographic Details

Title
"Teapot" from Thoughts About Pots series
Artist
Erica Spitzer Rasmussen / エリカ・スピッツァー・ラスムッセン
Year
2023
Size
h210 × w200mm
Weight
120g
Language
English / 英語
Binding
Hand Binding / 手製本(一点ずつ風合いが異なります)
Printing
Typewriter-printed / タイプライターで印字
Materials
Handmade paper / 手漉き紙
Edition
Unique
Condition
As New

It can be folded into a small size and stored. / 小さく畳んで保管できます。

民藝の系譜につらなる
ミネソタの土を漉き込んだ
うつわの形をした本。

今年の春、「希望のたね」の作者エリカ・ラスムッセンから「いま、あたらしい紙の立体書物をつくっている」としらせがあった。聞けば、それは陶工だった義父へのオマージュで、茶碗や花器や丸壺など、いろいろな陶器のかたちをしているのだという。ほどなくして、アメリカから届いた二重箱をあけると、異なる12種類の新作が包まれていた。いずれも、ことばを刻印した手漉き和紙がリング製本されていて、一枚ずつページをめくると本になり、立てれば「うつわ」になる。じっと眺めていると、なんだか濱田庄司の茶碗や李朝の白磁やリーチの花瓶にもみえてくる。エリカの義父とは、柳宗悦につらなる民藝の精神をもったアメリカ人で、北米ミネソタの土地に根を下ろし、日用雑記としての陶芸をひろめた世界的陶芸家、ウォーレン・マッケンジーのことだった。

エリカの義父である ウォーレン・マッケンジー / Warren MacKenzie(1924-2018)は、バーナード・リーチに師事し、アメリカ中西部ミネソタ州の森の中で65年間以上にわたって「民衆のための器」をつくりつづけた陶工だった。日本の「民藝」からおおきな影響を受けて、民藝 (MINGEI) とミネソタ (Minnesota) を組み合わせた「MINGEI-SOTA(ミンゲイソタ)」なる独自のコミュニティを育んだ。無名の陶工でありつづけたいと願い、亡くなる直前まで工房に通いつめた、そんな人だった。

陶工になったきっかけは、シカゴ美術大学時代に出会ったバーナード・リーチの『A Potter's Book(陶工の本)』(1940年刊行)との出会いから。つまらない授業よりもリーチの本を読み耽った。卒業後、自作の陶器を抱えてイギリスに渡り、セントアイヴスにスタジオを構えるリーチ・ポタリーの門を叩いた。しかしすぐに一緒に仕事ができる技術はなく、一年後にあらためて作品をみてもらう約束を取り付け、一年後に戻ったウォーレンはリーチの工房で働くことを許される。ウォーレンは28歳、リーチは63歳になっていた。

はじめのうちは、リーチ先生だった呼び方もしだいにバーナードにかわり、ときに意見をぶつけあい、切磋琢磨する関係になっていったのだという。すっかりリーチ・ポタリーに馴染んだ頃、海の向こうからリーチの盟友・濱田庄司がやってきた。この出会いが、陶工としてのあり方を決定づけることになる。

濱田は重要な仕事であるほど、たとえば茶道のための茶碗をつくるときなどは、わざわざ友人を招き、たわいもない話をしながら轆轤をまわした。雑談をしながら、いつのまにかうつくしい器が生まれている仕事にはっとした。育ちのよい英国紳士のリーチには、そういうフランクな陶工観はみられなかった。濱田のアプローチにこそ、ウォーレンは探し求めていた陶工の姿をみつけた。とらわれない作陶。そんな「離見の見」のような境地に、理想をみたのだ。よい陶器をつくるにはどうするべきか、と問うたウォーレンに対して、濱田庄司はこう言ったのだという「格闘してはいけない。そよ風に吹かれて丘を下りるように」と。

1994年に日本で製作されたドキュメンタリー映画「ミンゲイソタ〜ミネソタの陶工、ウォレン・マッケンジー」が公開されているので是非ご覧いただきたい。民藝不毛の地とおもわれるかもしれない北米中部のミネソタで、無名の陶工でありたいと願い、毎日うつわに向かうひとりの男がいる。柳宗悦、濱田庄司、バーナード・リーチに連なる民藝のおおきなうねりの中にひとりのアメリカ人がここにいる。



ところで、リーチ・ボタリーではじめて任された仕事は、マグカップと小さなスープ皿を1日で50個つくることだったという。50個すべてにOKをもらうために実際は600個も作ったのだとか。エリカの「Thoughts About Pots」も、いずれも身近なふつうの雑器のフォルムで、大きさも実際のものと同じで、飾り気がなく慎ましい。まるでウォーレンのうつわのように。タイプライターでページに打刻したテキストには、ユーモラスなものも、厳粛な言葉もある。ウォーレン自身の言葉のほかにも、ウォーレンの最初の妻アリックス・マッケンジーや、彼の師であるバーナード・リーチや濱田庄司の言葉も含まれている。

ウォーレンは、成形だけでなく陶土の配合も必ず自分でするようにしていた。エリカも製本だけでなく、みずから紙を漉き、タイプライターでタイピングする。義父のウォーレンを心から尊敬し、注意深くそのしごと現場を見てきたからこそ、彼女の手によって、ウォーレンへの弔いができたのだともいえる。この作品群を日本で紹介できることをたいへん光栄に思う。

「機械で作るよりよいものをつくらなければいけない、使う人との間に交流がなければよいものとは言えない」とくりかえし学生に伝えてきたウォーレン。手製も機械製もあってしかり、どちらもそれぞれの理由がある。しかし、手でつくるものは、使う人がその価値を感じられなければ意味がない。Thoughts About Potsは、身近な生活の場に置いてみていただきたい。毎日使うマグカップやポットのように、いつでも手の届く場所に。



Text by Ema Otobe


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Artist Message


『Thoughts About Pots』は、亡き義父ウォーレン・マッケンジーの言葉を集めたアートブックシリーズです。ウォーレンは 2018年に94歳で亡くなりました。義妹と私が家と陶器を掃除していたときに、粘土で覆われたウォーレンのオーバーオールを見つけました。けっして手放すことはできませんでした。あれから5年が経ち、この春、ついに勇気を出してそれらを切り刻み、繊維と粘土を紙の中に漉き込みました。ウォーレンの言葉をタイピングするたびに、私は彼を身近に感じるのです。

エリカ・スピッツァー・ラスムッセン


Thoughts About Pots is an artist’s book series that features quotes by my late stepfather, Warren MacKenzie. Warren died in 2018 at the age of 94. When my stepsister and I were cleaning out the house and pottery, I came across Warren’s clay covered overalls. See the image attached.  I couldn’t bear to part with them.  Just this spring, I finally worked up the courage to cut them up and put the fibers and clay into my paper.  Every time I type a Warren quote, I feel closer to him.

Erica Spitzer Rasmussen

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