質屋紙 / Shichiya-gami

Bibliographic Details

Title
Shichiya-gami / 質屋紙
Artist
Anonymous / アノニマス
Year
Late Edo Period ~ Taisho Period / 江戸末期~大正時代
Size
Square 700~900mm per side / 枡形(700~900mm / 1辺 )
Materials
Japanese paper / 和紙
Edition
Unique / 一点物
Condition
一部欠け 小穴など 画像参照

質屋から生まれた
ぼろの美。
江戸末期〜大正時代

「質屋紙」という呼称はあくまで便宜的につけた品名で、正しくいえば「質屋さんで使われていたタトウ紙(畳紙)」ということになります。長くなるので便宜的に「質屋紙」と呼ぶことに。ですが、その前にそもそもタトウ紙という言葉が通じない可能性がありそうです。
タトウ紙とは、道具や衣類を保管する際に、物品の保護を目的として使われた包み紙のこと。天地左右に袖があり、紙縒り紐を結んでキモノをしまっておく紙製の包み、あの包み紙がいまでも現役として活躍しているタトウ紙の筆頭株だといえばお分かりいただけるでしょうか。

質屋さんというのはご存知の通り、物品を担保にして、一定期間、お金を貸し付ける仕事です。従って質屋さんには、大事に預かっておかなければならない質草がどんどん増えていきます。質草といえばブランドものというのはおそらくバブル期以降のことであって、主なものといえば昔から貴金属やキモノ。その他にも装飾品や骨董品・道具類、時代によっては鍋釜布団まで質草として通用した時代があったと聞きます。いずれにしても、さまざまなかたちをした、色々なサイズと重さの質草を保管しておくために、包み紙が大量に必要とされたであろうことは想像に難くありません。

質屋さんにとってもうひとつ大切な商売道具に台帳があります。何年何月何日にどこの何兵衛から何を預かり返金期限はいつまでか … といったことをこと細かに記載しておくものです。明治から1950年代頃までの質屋さんの台帳を市場で時々見かけることがありますが、どれも比較的大ぶりで分厚い和綴じ。大切な書類ですが、しかし保存期間を過ぎれば、単にいらない紙の束に変わります。
捨てようとする台帳と、包み紙を眺めていてふとひらめいた人が居たかどうかはさておき、多くは使用済みの質屋の台帳をほどいた和紙を材料として、質草の保管用に手づくりされた大判の包み紙がこの「質屋紙」です。どれも一辺を70~90cmとする枡形。ちょうど風呂敷の「二巾」から「二四巾」と同じくらいの大きさで、発想の基本には、風呂敷があったのかも知れません。

今回ご紹介する質屋紙は全てひとつの質屋さんから出てきたとみられ、古いところで江戸末期あたり、新しいところでは大正末頃までにつくられたもの。多くは質屋の台帳をほどいたもので、裏返しにして貼り合わせることで簡単に読めないようにしているのは質屋さんたちの職業倫理感によるものか、興味深いところです。その他にも、書道の書き損じと見られる和紙、銅版画の挿絵が透けてみえる明治の理科の教科書、赤や青の罫線入りの帳面など、身の回りにあっていらなくなった和紙という和紙が総動員されています(しかも全て表裏反転) 。単に貼り合わせてサイズを大きくしたばかりでなく、三重四重に貼り重ね、さらに弱ったり痛んだ部分に和紙でツギを当てるなどして徹底的に使い込まれた結果、しなやかでやわらかく変化し、まるで「布のような質感や手触り」になっています。

今回ご紹介する〈A〉は、ダンボール1箱分まとまって入荷した質屋紙のなかでもとりわけ古く、また風貌怪異とでもいうような迫力のある1点です。ここまでのものは他に見たことがありません。〈B〉〈C〉〈D〉は清潔感のあるものを選んでいます。茶色に染めているようにみえるのは柿渋を刷毛で掃いたもので、防腐防虫を考えてのこととみられます。

コロナが世界で猛威をふるう直前まで、海外、とくにヨーロッパでは日本の「ボロ(襤褸)」がちょっとしたブームでした。つぎをあてたり穴をふさいだり、痛みが生じた布地に都度手を入れて、手を入れた痕跡を残したまま、さらに使いこまれているという点で、ボロと質屋紙は、とてもよく似ています。ボロの視点で見れば、質屋紙も極めて美しいものではないでしょうか。

Text by 佐藤真砂

 

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