PFERDEBEINE

Bibliographic Details

Title
PFERDEBEINE
Artist
Yasutomo Ota / 太田泰友
Year
2015
Size
h660 × w160 × d10 mm
Weight
700g
Language
German / ドイツ語、Japanese / 日本語
Printing
ハンドオフセット印刷
Materials
蹄鉄によるグラフィック、楮紙、NTスフール
Edition
23
Condition
new

原作は芥川龍之介の怪奇譚。
«PFERDEBEINE»
2015

芥川龍之介の『馬の脚』を題材にした作品です。

この本の長さはなんと66cm。サラブレットにしては少し短めな脚ですが、日本の在来馬の脚の長さとしてはちょうど平均値。馬の脚が入る本棚はありませんが、本作も本棚には収まりそうにありません。

芥川の『馬の脚』について、ごくごく簡単に解説をしておきます。『馬の脚』は、1925年(大正14年)初出の綺談で、「大人に読ませるお伽噺」という一節からはじまります。大正時代の北京在住の商社マンの「忍野半三郎」は、手違いの死で幽冥界に来てしまったため蘇生されたものの、そのとき既に脚が腐っていたので、自分の脚の替わりに馬の脚をつけてこの世に送り返される羽目に。移植された馬の脚は主人公の意志と関係なく、本能のままに駆け回り、遂には白いズボンの下から覗く毛だらけの馬の脚を妻に見られてしまい、やがて彼は姿を消します。フランツ・カフカの『変身』を彷彿とさせる奇想天外なストーリーです。

真っ白な表紙なのに、表情、或いは体温のような生きものを手触りを感じます。中のページを開いて驚くのは、本文の配置。ズボンの型紙の輪郭にそって日本語とドイツ語のテキストが流れていきますが、とても不思議な景色です。そしてテキストの下を駆け抜ける蹉跌の跡。視覚的なそのイメージから、鑑賞する人は馬の足音や馬が蹴った土埃を連想せずにはいられません。大きく、物語性に富んだ本だけに、ページをめくる度に本の中に吸い込まれそうな錯覚に囚われます。

表紙と蹄鉄のグラフィックに用いた白い紙は、主人公「忍野半三郎」が履いている白いズボンから構想を得て選択されました。一見普通の紙に見えますが、実際に触ってみると毛のような、動物の皮のような人肌のようにも感じられる特殊な手触りの紙です。表紙には、紙の質感を強調するように、日本語とドイツ語のタイトルが、強めに空押しされています。

本文は、ズボンの型紙の形に文字が配置されています。作中で、天国からこの世へ送り返される際に移植された馬の脚が、主人公の太ももから下に接続されていることから、テキストは型紙上方の日本語に、型紙下方のドイツ語が接続されるように組まれています。また、二重折になって印刷されている和紙の中には、蹄鉄にインキをつけて直接押してできたグラフィックを挿入しているため、一冊として同じ本はありません。型紙というモチーフに和紙を組み合わせることで、実際に型紙として用いられることもある和紙という素材の可能性にも迫っています。

『馬の脚』について:

発表は大正十四年。芥川龍之介が自ら命を絶つわずか二年前のことです。『馬の脚』は中年男性が馬の脚を自分の太ももから先に移植されてしまう奇想天外な物語。蘇生や移植といった出来事は「再生」を、自分の意思と関係なく本能のままに駆け回る馬の脚は「狂気」を象徴しています。この頃、芥川龍之介は既に精神を病んでいました。主人公「忍野半三郎」は、芥川龍之介自身だったのかもしれません。

Text by FRAGILE BOOKS 乙部恵磨