Jin-shin Jiko / じんしんじこ

Bibliographic Details

Title
Jin-shin Jiko / じんしんじこ
Author
Yoko Tawada / 多和田葉子
Artist
Veronika Schäpers / ヴェロニカ・シェパス
Translator
Margaret Mitsutani / マーガレット・満谷
Year
2018
Size
h460 × w160 × d?mm
Pages
24
Language
Japanese 日本語 / English 英語
Printing
Letterpressed with polymer plates in gray, partially underlaid with yellow and anthracite on old Toshaban-Genshi. / 旧東写版原紙にグレー、部分的に黄色と無煙炭の下地を施したポリマー版で活版印刷。
Materials
Binding made from Tsuchi-iri-Mitsumata paper, a Mitsumata paper dyed with coarse pigments. Jacket made from First Vintage paper with a subway ticket for the Tokyo rail network tucked into it. Acrylic sleeve with two-tone screen printing. / 旧東写版原紙にグレー、部分的に黄色と無煙炭の下地を施したポリマー版で活版印刷。 英訳: マーガレット満谷。 装丁は土入三椏紙(三椏を粗い顔料で染めた紙)。 ジャケットはファースト・ヴィンテージの紙を使用し、東京の地下鉄の切符が挟み込まれている。 アクリルスリーブにツートンカラーのスクリーン印刷。

ことばと旋律が
タテヨコナナメに交差する
路線図のような一冊

多和田葉子は過去に「自分の詩が他の国のことばに翻訳されたとき、そのことばを通して、はじめて自分が書いた詩を理解することがある。そのことばたちはまるで、私が書きたかったその心を映す鏡のような存在だと感じる」と話していたことがある。

いつも「言葉」からはじまるヴェロニカの本づくり。この一冊は、多和田葉子による「じんしんじこ」という詩をきっかけに作られた。(こちらから音読された詩「じんしんじこ」を聞くことができます)ぜひ、声に出して読んでみて欲しい。

「じんしんじこ」という詩は、「人身事故」をもとに、身体と魂、自己と個人、人間と死体、リズムと静寂に関連する言葉の響きや旋律と戯れ、東京の地下で縦横無尽に駆け回る高速で整然と配置された公共交通機関に音を与えている。
そんな言葉のリズムと無機質な交通機関のコントラストを鋭敏に捉えたヴェロニカは、駅構内図にヒントを得て、日本語のテキストは縦書きに、英訳は横書きに交互に配置した。タテにして読んでも、ヨコにして読んでも構わない、というメッセージでもある。

本編に登場する写真は、ヴェロニカ自らが撮影した東京の地下鉄の風景で、その逃れがたい密閉感とともに、近年「人身事故」防止のために施されたさまざまな対策──ホームドア、ホーム端の色付きライト、非常電話など──が映り込んでいる。写真はすべて平面的かつ高度に抽象化されていて、何枚かのイメージはグレーで印刷され、その下には、コンクリートのトンネルを思わせる灰色や、プラットフォームに見られる警告色の黄色など、日本の地下鉄に特徴的な色彩を捉えることができる。

言霊とはよくいったもので、これはどうも日本語に親しむ人にしか感じられない、出汁の旨味のようなものらしい。「人身事故」は重苦しいテーマでありながら、「じんしんじこ」という言葉そのものが持つお手玉のような心地よいリズムがその重しを取り払う。この言葉の印象をそのままに、ヴェロニカは、テキストの書体や行間を詩の世界観にぐっと寄せることで言葉が持つ本来の力を生かしている。そして、テキストとは対象的に、極めて抽象的な写真を大きく配置することで、本の中の空間におおらかな波のような旋律を与えている。薄く透ける雁皮紙の重なりは、トンネルの向こうに次の目的地を期待する地下鉄の動的感覚を伝えるしかけだろう。

カバーは、粗い顔料で染められた三椏紙の厚紙で左右両側に観音開きとなる。中央には小さな円形シンボル(各地下鉄路線のマーク)の切り抜きがあり、その内側には隠れるようにして東京の地下鉄路線図の一部が印刷されている。実際に使われた乗車カードが1枚挿し込まれており、カバーの上からはさらに美しいアクリル製のスリーブ付き。

じんしんじこ

        多和田葉子


ででん
ででん でんでん
でんし


で でんしゃがとまります
じんしんじこ
にんしんじこ
おりるときには
おろすときには
じんしん
にしん
の かんずめ
のように ならんだ せんろにそって
ごろごろ ならんだ にしんのしたい
したい
したいくない あれ したくない
これ も したくない
したいの
したくないよ
しんぱいごと さえ ない
しんしん の けんこう
せいしん の けんこう やどる
せいし やどる
しんしん しみる
したい の ふはい
しんしん
ゆきが したい に ふりかかる
じこ の しょり
じぶん の しょり
やみをいそ ぐ しょり
ぐっしょり ぬれて きゅうじょ
あかく ばらばらに
ばらにくの だんめんの
しもふり に
にく
とろ かったんだな
かてないのは
とろ の あかみに
まるで ばらのはな さく
さけた はなびら の
あか が くろずみ
じんしん ではない
ひと の み
しん と つめたい りんご の しん
を あさ かんだ ときに
こめかみに すでに かんじはじめていた
にんげん やめて じん になった
わたしは じん
あなたも じん
じんしん かかえて みじん こっぱ
じんの しかい は せまい
よけられなかったか よければいいのに
と あなたは いう
けれど いわれても
せ かい いっぱいに でんしゃが せ
まってくる
まってくれ
まってくれない



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Building on the Japanese term for personal injury, “Jin-shin Jiko,” or “human accident,” Yoko Tawada plays with words and syllables relating to body and soul, self and person, human and corpse, rhythm and silence. She gives a sound to the fast, orderly arrangement of local public transport in Tokyo’s subways – a machinery to which every passenger is subject, and one that is constantly being tested and perfected. Inspired by the station maps for individual lines that are posted in the corresponding train stations, the Japanese text is arranged vertically, alternating with the English translation, which is set horizontally on the reverse of each page. The two different reading directions create a dual format that is also repeated in the photographs preceding and following the text; the book can be viewed and read in landscape as well as in portrait format. The images show scenes from Tokyo’s subways, illustrating not only their inescapable-seeming closeness, but also the countless measures taken in the last few years to prevent incidents involving personal injury – such as barriers along the edges of the platforms, colored lights at the ends of the platforms, and emergency telephones.