FJELL HAV POESI / 山海詩
Bibliographic Details
- Title
- FJELL HAV POESI / 山海詩
- Designer
- Pan Yanrong / Yilei Wang
- Publisher
- Kinakaal Forlag
- Year
- 2021
- Size
- h265mm × w177mm × d12mm
- Weight
- 380g
- Language
- Norwegian & Chinese / ノルウェー語 & 中国語
- Edition
- As New / 新品
- ISBN
- 978-82-690989-4-5
緑はベルゲンの山、青は上海の海
野花をやさしく摘むように
その土地の詩を集めて
この本は、ノルウェーのベルゲンをベースに活動する詩人7名と、中国の上海が拠点の詩人7名、合計14人の詩作をまとめた詩集である。
本の身体にことばが浸透していくような造本デザインは、稀に見る出来栄えだ。ノルウェー在住の中国人夫妻が手がけた本で、これほどの本を作れる才能にも、印刷製本の現場力にも脱帽せざるを得ない。
タイトルの「山海詩」は、ふたつの都市の名前に由来する。ベルゲンはノルウェーの西海岸に位置し、七つの山に囲まれた自然豊かな街として知られている。これに対して、上海は海の上にそびえる世界最大の沿岸港湾都市のひとつだ。このふたつの街には共通点がある。古くから港が外国との文化と金融の窓口として栄えてきたこと。そして、多くの詩人を育む現代詩の聖地であること。この共通点に目をつけた企画者のベン、イーレイ夫妻は、自身も上海出身であることから、ユーラシア大陸の東西端に位置するふたつの街を、詩で結びつけるという前代未聞のプロジェクトを発動した。
この本に収録されている詩は、すべてノルウェー語と中国語のバイリンガルで併記されている。翻訳を担ったのはノルウェー在住で上海出身の建築家であるベン(寧孟)だ。ベンは、2014年の魯迅文学賞最優秀翻訳部門にノミネートされた『ザ・ビートルズ』、そしてスウェーデンの小説『幸せなひとりぼっち』まで、過去10年間に数多くの北欧文学を中国語に翻訳してきた。そんな彼にとってこの本は、母国語である中国語からノルウェー語へ逆翻訳の初めての試みだった。翻訳では原文の雰囲気やリズムを完全に再現することが難しいことから、両言語の知識がある読者のために、原文と訳文とを併記することにもこだわった。その結果、両国の読者から好評を得ている。
装丁デザインを手がけたのは、ライプツィヒの「世界で最も美しい本コンクール(BEST BOOK DESIGN FROM ALL OVER THE WORLD)」を何度も受賞している中国人デザイナー、パン・イエンロン(潘延栄)。本文には、緑と青の色紙を上下交互に綴じ込んである。緑はベルゲンの山、青は上海の海なのだという、紙の色ごとに詩人の属性が判別できるのでインデックスの機能も併せ持つ。わざと紙をほころばせた天の部分は、つい指先で撫でたくなる。その有機的な姿は、まるでひとつの意思を持った生命体のように詩的な佇まいだ。パンはこの本について下記のように話している:「山海詩」は、ベルゲンと上海、ふたつの都市間の文化交流のために出版された詩集で、それぞれの街の気質に合わせて、山はベルゲンを、海は上海を表した。内容に基づいてデザインコンセプトを練り、構造上、上部にのぞく緑は山、下部にのぞく青は水、そして真ん中に現れる二つの色の境界線は、地平線だ。テキストはすべて特色で印刷し、全体を通して一貫した世界観をたのしめるようにした。天の部分だけ紙の端をに特殊加工を加え、ふわふわで直線を排除したのは、心の「動き」をことばで伝えるという詩の特徴を表現したかったから。紙の選定には特に気を配り、結果的にその軽さと質感はオブジェとしての芸術性を高めることに成功しています。この本の場合、構造・構成はいずれもとても明快で合理的なロジックの上に成り立っているからこそ、その骨格が目立たないよう、視覚と触覚から感情的な部分に訴えかけるように細部に工夫を凝らしてある。この本は読む喜びに留まることなく、ずっと手元に置いておきたくなる上質なオブジェでもある。
1990年代生まれのノルウェーの詩人ハーゲン(Fredrik Hagen)は、序文の中で読者にこう問いかけている「詩と詩が生まれた場所との間には相互関係があるのか?」 と。彼は読者がこの詩集を読みすすめる中でその答え、あるいは少なくとも何らかの手がかりを見つけられることを期待している。彼の問いには、二つの極端な解答が想定される。ひとつは、詩はそれが書かれた場所にまったく影響を受けることなく、人間の心から湧き出る言語表現に過ぎない。このために詩は常に普遍的であり、中国やノルウェーなどの地域性に影響されることはないという考え方。もうひとつは、地域性や環境を含めた「場所」が詩作において常に決定的な役割を果たし、詩は「どのように」書かれるかだけでなく、特定の地域性が詩人の書く動機・対象・目的を根本的に決定づける、という考え方だ。
詩人・茨木のり子は著書『詩のこころを読む』の序文でこう記した「いい詩には、人の心を解き放ってくれる力があります。いい詩はまた、生きとし生けるものへの、いとおしみの感情をやさしく誘い出してもくれます。どこの国でも詩は、その国のことばの花々です」と。つまり、ハーゲンの問いに対する解答には、「特定の地域性が詩人の書く動機・対象・目的を根本的に決定づける」という考え方が適切と言えそうだ。一篇の詩が生まれた場所が、その内容にまったく影響を及ぼさない、という方が無理があるだろう。その海でしか生まれない生命がある、その土地でしか育たない花がある、その街でしか書けない一遍の詩があることもまた、自然の営みのひとつと言えるのではないだろうか。
2021年のノルウェーの最も美しい本アワード金賞受賞作。
参加詩人:
<ノルウェー>
Tomas Espedal. 1961
Cecilie Løvei. 1951
Kristian Hæggernes. 1951
Henning H. Bergsvågs. 1974
Tora Sanden Døskeland. 1992
Katrine Heiberg. 1992
Fredrik Hagen. 1991
<上海>
徐芜城. 1970
海岸. 1965
王寅. 1962
胡桑. 1981
刘晓萍. 1979
包慧怡. 1985
秦三澍. 1991
Kinakaal Forlag
中国・ノルウェー文化交流組織Northingの出版レーベル。東アジアとノルウェーのアーティストのために新たな対話の機会を創出し、文化のさまざまな側面でコミュニケーションの可能性を広げることを目的としている。Kinakaalはノルウェー語で「白菜」を意味する。ノルウェーでも中国でも、白菜は最も普遍的な野菜で、ノルウェー人と中国人を直観的に結びつけるアイコンとして相応しいと考えたそうだ。そして、Northing はふたつの遠く離れた文化のあいだに隠れた脆弱なつながりを発見できるように、という願いを込めて出版社名を Kinakaal と名付けた。
https://www.northing.no/kinakaal-forlag
Kinakaal wishes to facilitate direct contact and cooperation between East-Asian and Norwegian artists and designers through book and design projects. With Kinakaal (Chinese cabbage), Northing wishes to open up new opportunities for conversations and collaborations between East-Asia and Norway, to explore various cultural dimensions, such as visual, independent, and academic culture, as well as less known cultural expressions.