解体された壁紙 / Wallpaper

Bibliographic Details

Title
壁紙
Author
Unknown / 不明
Year
2010
Size
8

解体された
備前焼ギャラリーの
壁紙

私の店の隣には、長らく、備前焼を専門に扱うギャラリーがありました。ご店主は私などよりずっと若くてセンスもよく、たいへん器用な方で、石を敷きつめ緑を置いたベランダは坪庭に、ただの白い壁は茶とグレーを効果的に配した壁紙を使って渋い空間へと、見事に仕立て直しておられました。しかも全て自力で。3.11と原発事故、コロナの渦中など、表参道がゴーストタウンに変わり果てるたびに声をかけあってきた数少ない商売仲間です。2020年の晩秋のこと。その備前焼ギャラリーさんが突然引っ越すと宣言しました。移転先に選ばれたのは京都の古民家です。

宣言からひと月、店を自力で改装したその同じ手で片付けも着々と進められ、備前焼がよく似合う格調高く落ち着いた空間は、何事もなかったかのように普通のマンションのワンルームに戻っていました。
「あとはこれを捨ててしまえば京都に行くだけです」という最後の最後、ワンルームの真ん中に小さく積まれていた残置品から、これは捨てるに忍びないと思い、有難く頂戴したのがいま店で使っている塗りのお盆とこの壁紙でした。

残欠どころかそのものずばり残置品ということになりますが、工芸系のメーカーがつくったこだわりの壁紙と聞くだけあって、銀と茶との2色が織りなす複雑な表情が、一点ものであることを主張しています。
マットな茶色はおそらく柿渋。銀箔を貼り重ねた上からさらにもうひと手間かけて、地色の茶色を露出させているようです。
支持体は厚手の和紙でとてもしっかりしており、折れやシワもありません。自然素材の糊を使えば何度でも使えそうですし、壁紙に限定せず素材として活用することもできそうです。

解体直前の建物や、時に解体中の家屋なども、 古本屋にとっては大切な仕事場のひとつです。そうした現場に入る度に、何も「持続可能な」なんて大きな構えなしに、単純に使えるものは生き伸びさせてやりたいと思います。しかし現実には、すでに組みたてられたスケジュールやコスト計算が優先されて、時間的・精神的な猶予など残されていないケースがほとんどです。こんなに優れた仕事は二度と取り戻せないだろうと思う建具や設え、ガラスや引き手など、壊されていくと分かっていながら何度現場に残してきたことか。
最近では、家屋が解体される前に、不用品から家財道具、とれる部材まで、チームでひきとりリユースマーケットにリリースする動きも出てき始めたようですが、いまのところ、そこに古本屋が加わっていないようなのが残念です。

FRAGILE BOOKSで「家仕舞い」をプロジェクト化できるのではないかと、半ば冗談、半ば本気で話したことがあります。この壁紙が次のどなたかの役に立つと分かれば、「家仕舞プロジェクト」の ”半ば本気” は ”100%本気” に変わるかも知れません。なんてね。
最後になりましたが、置き土産のあるじ、「備前焼ギャラリー」の伊藤さんは、京都の古民家でますますご盛業です。今度はほんものの坪庭つき。うらやましい。


Text by 佐藤真砂


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